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【シラクザーノ感想】革命とはなんだろうか【ゴッドファーザーとアークナイツ】

※この記事はアークナイツ及びゴッドファーザーのネタバレを含んでいる。

 

 

アークナイツのイベントシナリオが更新された。

 

その名は「シラクザーノ」

 

シラクーザと呼ばれる地で起きる、マフィアの抗争を巡るストーリーである。

 

シラクーザのマフィア、「テキサスファミリー」の生き残りであるテキサスは、シラクーザに戻り、過去を清算することになる。そして、レオンの父であり、今作最も重要な人物であるベルナルドは、マフィアのドンでありながら、シラクーザをマフィアのいない都市にしようとする。しかし、父の理想では、マフィアが「今」なくなったとしてもマフィアの存在に慣れきってしまったシラクーザの人々には、また新たなファミリーが誕生し、新たなマフィアが根付くだけだとした。それでは不十分であるとして、レオンは都市をイチから作っていくことで父の理想を引き継ぐことになる。

 

これが今回の簡単なあらすじである。

 

今回、このストーリーを読み解く上で、キーになる二つの作品と著作が存在する。

 

一つ目は言わずもがな、マフィア映画の金字塔である、ゴッドファーザーである。

 

今回のシラクザーノは、ゴッドファーザーをたぶんに意識して作られている。

 

まずレオンの父、ベルナルドからして、この通り、どう見ても、ゴッドファーザーの主人公の父、ドンコルレオーネであるし、オペラの最中に事件が起きるというのはゴッドファーザー3で見られた展開である。

 

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しかし、むしろ今作のシラクザーノはゴッドファーザーに対するアンチテーゼとも言えるだろう。

 

まずゴッドファーザーでは、父のビト(ドンコルレオーネ)の最期が描かれている。それは、ベルナルドのように劇的なものでは全くなく、息子のマイケルにドンの仕事を引き継がせた上で、孫と庭で遊んでいる最中に亡くなる。彼は家族に囲まれ、穏やかでありながら、一つの時代の終わりを告げるような死を遂げるのである。

そして一方息子のマイケルはというと、ゴッドファーザー3のラストで、彼は娘を殺され、失意の中孤独に亡くなる。

 

ゴッドファーザーは、このように「同じ家族を守ろうとしたビトとマイケルの全く異なる最期」を描いている。これは、マイケルが、ビトの「ゴッドファーザー」という称号に含まれる、本当の意味を理解できなかった。それを継ぐことができなかった故の悲劇だと、私は解釈している。

 

では、シラクザーノはどうだろうか。

父ベルナルドそのものは、ビトのように満足して死んでいった。しかし、レオンは、父の真意を理解し、むしろそれを発展させるような形で、それを継いでいる。ここに、アークナイツの面白さが存在する。オマージュ元となった作品へのリスペクトは持ちつつも、それの後追いに終わらない形での、それに対する姿勢を見せているのである。

 

そして、もう一つ、ゴッドファーザーへの意識が向けられていると思われるポイントが存在する。

 

それは、ルビオとダンブラウンの存在である。

 

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この作品は、ルビオという、この冴えない中年男の勇気ある行為によって、クライマックスを迎える。

彼は、小心者として、軽んじられ、蔑まれ、おそらく途中までならプレイ中のユーザーからも、同じような目を向けられていたに違いない。しかし、彼は、人知れずある想いを抱えていた。

 

 

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それは、前建設部長のカラチへの想いであり、マフィアへの軽蔑である。彼は、小心者の男ではなかったし、愚かでもなかった。

 

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彼はカラチを心から尊敬していたし、マフィアの時代を終わらせるため、その人生の最期において、勇気ある行為によって、人々を奮い立たせたのである。

 

ところで、勇者とはなんだろうか。それは当然ながら勇気ある者のことである。では勇気とはなんだ?力のある者?知恵のある者?どれも違う。

 

それは、自ら進んで行為し、自らの物語を創始し、自身を世界の中に挿入することのできる者である。私的な場に留まることなく、他者の前で自分が何者であるかを示すことのできる者である。

 

この意味で、ルビオはまさにこうした意味での勇気ある者であった。彼は、権力欲でも、自己顕示のためでもなく、ただ新しいシラクーザのために、自らの命も顧みず、自ら行為し、自らの勇気を示した。だからこそラヴィニアはその姿勢に感銘を受け、彼の意志を継いだのである。

 

シラクザーノは単なるゴッドファーザーのオマージュではない。そこには、様々な文化、哲学、思想が複合的に溶け込んでいる。

 

そして今回、このシラクザーノの裏のテーマを通底していると思われる一冊の著作がある。

 

それは『革命について』という本である。

 

これは単なる私の所感であるし、別にこの本を意識してハイパーグリフが作品を手掛けたとは思っていない。しかし、確かにこの著作はこのイベントの中で描かれているストーリーにおいて、それを明確に言い当てている側面が存在する。

 

本の内容については深追いはしないが、この著作の主な主張について簡潔に説明する。

まず、革命には単なる暴動や体制の転換では不十分で、革命とは「自由の創設」が欠かせないということが述べられている。

ここにおける自由とは、「〜からの自由」といった「解放(revelation)」としての自由ではない。自由とは「freedom」であり、政治的自由、そして、政治共同体の中に創設されるもの、ということを示唆している。

フランス革命の、暴動のような革命では、結局、革命中にそういった「自由の創設」が行われなかったため、混乱を生み、恐怖政治に陥ってしまった。

一方、アメリカの独立革命は、「自由の創設」に一定成功したために、安定した体制を築くことができた。

かなり荒いがそれがこの本の主な主張である。

 

では、今回のシラクザーノではどうだったか。

まず、今回の「革命」のきっかけは、ルビオの演説だった。

これは、それまで多くのシラクーザ市民の中に埋もれていたルビオが、自らの行為によって、このシラクーザという共同体の中に、「始まり」という新たな意味の源泉をもたらした。

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それはシラクーザにとって「マフィアのいないシラクーザ」を意味した。

 

そして、ベルナルドはこのルビオの演説と彼の死を利用して、それをさらに押し進めようとするのだが、それでは同じ循環の中から抜け出せない。それでは単なる一時的な政権の変化でしかないからだ。これが真に革命となるために必要なのは「歴史的な転換」に他ならない。

 

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そしてそのためには、プロセスに人々が「参加」する必要があるのだ。このプロセスへの「参加」とはまさに民主主義に他ならない。

そして、最後に、レオンはミズシチリアから「都市を一つ貰う約束」をする。

これは、レオンが一から人々とともに、「マフィアのないシラクーザ」を作ろうとすることを意味する。

これはまさに「革命について』で語られている「自由の創設」ではないだろうか。

そして、それを望ましい形での「権力」として創設することが、まさしく自由の創設であり、レオンの望みである。

 

 

今回、この記事ではこうしたシラクザーノの思想的な部分について着目したが、アークナイツの魅力は、単なる思想の表面にとどまらない点にある。

その思想部分、そしてそれを語るキャラクターの魅力が一体となって、この作品は成立しているのだろう。